『酔いどれ次郎八』

酔いどれ次郎八 山本周五郎

あらすじ

時は天和二年(1682年)。播磨国・竜野藩の侍、矢作次郎八と岡田千久馬の二人は、藩の名刀「金光」を奪って薩摩へ逃げた杉原喜兵衛を討ち取るため、命を懸けた潜入任務を遂行する。薩摩藩の厳しい監視の中、二人は三年もの歳月をかけて身を潜め、ついに喜兵衛を討ち、名刀を取り戻すことに成功する。しかし、次郎八の胸には不吉な予感があった。

脱出の最中、次郎八は千久馬を逃がすため、自ら囮となり追手を引き受ける。壮絶な戦いの末、千久馬は名刀を携えて故郷・竜野へ帰還するが、次郎八は行方不明となる。

二年後、千久馬は無事に竜野へ戻り、次郎八の許婚であったゆき江と出会う。次郎八の死を悲しむゆき江と千久馬は、彼を偲ぶうちに互いに惹かれ合い、ついには結ばれる。次郎八の親友である森井欣之助も、二人の絆の深さを理解し、祝福するのだった。

しかし、運命は皮肉にも二人の幸せを打ち砕く。死んだはずの次郎八が、二年の歳月を経て帰還したのだ。次郎八の体には、薩摩での過酷な潜伏生活を物語る火傷の跡が残り、彼はかつての冷静沈着な剣士ではなくなっていた。ゆき江と千久馬の結婚を知った次郎八は、酒に溺れ、荒んでいく。

やがて次郎八は、千久馬に決闘を申し込む。長年兄のように慕った次郎八との果し合いに、千久馬は悲しみながらも応じる。激闘の末、千久馬が勝利し、次郎八は去っていった。しかし、それは彼の真意ではなかった。

次郎八は自らを「悪人」とすることで、世間の目を千久馬とゆき江から逸らし、二人を守ろうとしていたのだった。彼は友の幸福を願い、自らを犠牲にする道を選んだのである。

次郎八の胸に去来するのは、ゆき江への叶わぬ愛、千久馬への深い友情、そして果たされることのない帰郷の夢。静かに竜野を後にした彼の姿は、夜風の中に消えていった――。

書籍

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