『歔欷く仁王像』

「歔欷く仁王像」山本周五郎

あらすじ

和泉屋の一人娘・お通と、従兄弟で小僧の清吉は、幼い頃から仲の良い間柄だった。ある日、二人が土蔵で隠れんぼをして遊んでいる最中、清吉は誤って甲冑を着たまま転倒し、頭を強く打つ。意識を取り戻した清吉だったが、耳が聞こえず、言葉も話せなくなってしまう。

同じ頃、和泉屋に不吉な事件が起こる。名家・島津家から預かっていた「兜」が忽然と姿を消し、父・治兵衛はその責任を問われ、島津家に幽閉されることになった。さらには夜ごと、近くの法心寺にある仁王像がすすり泣き、「和泉屋の娘は親不孝者だ」と告げるという不気味な噂が広まる。

父を救おうと必死に奔走するお通だったが、番頭の藤兵衛と島津家の用人津田直記の間には、ある陰謀が渦巻いていた。藤兵衛は、治兵衛の不在をいいことに和泉屋の財産を売り払い、津田直記と結託して店を乗っ取ろうとしていたのだった。

そんな中、大岡越前守がこの怪事件に目をつける。夜な夜なすすり泣く仁王像、失われた兜、そして沈黙する清吉…。やがて、事件の鍵を握るのは、清吉が"本当は耳も聞こえ、口もきける"という衝撃の事実だった。

清吉は事故以来、陰謀を探るためにわざと押し黙っていたのだ。そして、彼こそが仁王像のすすり泣きの"正体"だった。清吉は津田直記と藤兵衛の密談を盗み聞きし、仁王像の影から「兜は津田直記の別宅・向島の古杉の洞に隠されている」と告げたのだった。

大岡越前の命により、隠されていた兜は発見され、津田直記と藤兵衛は捕えられる。治兵衛は無事に解放され、和泉屋には平和が戻った。

事件がすべて解決した後、お通が「また隠れんぼをしましょう」と清吉に微笑むと、清吉は「今度は見つかっても、押し黙ったりしないよ」と応じた。二人の絆は、再び強く結ばれるのだった。

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