『白石城死守』

「白石城死守」山本周五郎

あらすじ

1600年、関ヶ原の戦いの前夜。徳川家康は、奥州の伊達政宗に対し、会津の上杉景勝を牽制するよう命じる。伊達軍は上杉領の白石城を攻め落とすが、家康の軍令により撤退せざるを得なくなる。しかし、政宗はただ城を明け渡すのではなく、わずかな兵を残して抵抗を続ける道を選んだ。

この大役を託されたのが、伊達家の家臣・浜田治部介であった。彼はたった52人の兵とともに、白石城を死守することとなる。城を守ることはすなわち、死を意味する。援軍の望みはなく、圧倒的な数の上杉軍との戦いに挑まなければならなかった。

戦が始まる中、治部介のもとに一人の女性が現れる。それは、妻・奈保だった。奈保は夫に一目会うため、敵の銃弾が飛び交う戦場を駆け抜け、命を賭けて城へと向かってきたのだ。しかし、城に辿り着く直前、彼女は敵の弾丸に倒れてしまう。最期の力を振り絞り、這うようにして城門までたどり着いた奈保を、治部介は抱きかかえ、静かにその死を見届けるのだった。

「戦とは何か」——奈保の死を前に、治部介は心の奥でそう問いかける。しかし、彼は涙をこらえ、ただ城を守るという使命に徹する。片倉景綱率いる伊達軍が援軍に駆けつけたとき、白石城はすでに廃墟と化していた。生き残ったのは、治部介を含めわずか18人。彼らは、満身創痍の姿で主君の前に立ち尽くしていた。

治部介は、すべてを知った片倉景綱に対し、「援軍を求めることは初めから考えていなかった」と静かに告げる。なぜなら、白石城を守ることが、戦全体の戦略において必要な時間を稼ぐための決断だったからだ。最後まで戦い抜くことこそが、彼の使命だったのである。

戦の果てに残ったのは、城と兵の傷跡、そして妻・奈保の墓標。治部介は、遠くを見つめながら、亡き妻に語りかける。「なお、岩出沢へ帰れ」と——。

『白石城死守』は、戦国の激動の中で、武士としての誇りと愛の狭間に揺れる男の生き様を描いた、壮絶な戦いの記録である。

書籍

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