『竜と虎』

「竜と虎」山本周五郎

あらすじ

岡崎藩の書院番 西郡至(にしごおり いたる) と、作事奉行 灰島市郎兵衛(はいじま いちろべえ) は、学問・武芸ともに優れた人物だが、性格が合わず、顔を合わせるたびに口論になる。市郎兵衛は「これは臍(へそ)の問題だ」と言い、至とは根本的に合わないと考えていた。

元禄十五年、矢矧川の堤防が決壊し、市郎兵衛が復旧工事を指揮することになり、補佐役として至と八木次郎太(やぎ じろうた)が選ばれる。工事の方針を巡って至と市郎兵衛は衝突し、激しく口論するが、市郎兵衛の娘 幸枝(ゆきえ) が仲裁に入るうち、至と幸枝の間には淡い感情が芽生える。

そんな中、次郎太が至に「幸枝との縁談を取り次いでほしい」と頼み、至は苦悩しながらも引き受ける。しかし、市郎兵衛はこの話を聞くや激怒し、結局、至は工事加役を辞任する。
後日、幸枝は至に本心を確かめようとするが、至は「自分で決めるべきことだ」と突き放し、幸枝は悲しみながら去る。

ところが、至は偶然、かつて家に仕えていた女中 かね を助け、彼女が八木次郎太の子を密かに育てていたことを知る。八木は「いつか正妻に迎える」と約束していたが、それは嘘だった。至は八木を問い詰め、彼に「もう一度やり直せ」と諭す。

その後、至は市郎兵衛の屋敷を訪れ、幸枝との婚姻を申し出る。市郎兵衛は激怒して口論となるが、最終的に「支度を整えてから嫁にやる」と承諾する。
隣室でこれを聞いていた幸枝と兄・伊織(いおり)は微笑み、「ついに竜と虎が相い結んだな」と語り合うのだった。

『竜と虎』は、相性最悪な二人が衝突しながらも互いを認め合い、やがて家族となる痛快な物語。剣豪ものや恋愛劇の枠を超え、義理・人情・信念が絡み合う山本周五郎らしい人間ドラマが展開される。

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本文

性が合わぬというのはふしぎなものである。西郡至にしごおりいたるは学問もよくでき、武芸も岡崎おかざき藩中で指を折られる一人だった、いえがらは三百石の書院番で、人品もに立つほうだし人づきあいも決して悪くない、むしろどちらかとえば寡黙かもくで、謙虚で、愛想のよい方である。……灰島市郎兵衛はいじまいちろべえにしても同様、五百石の作事さくじ奉行で、年齢はもう五十一歳、長男の伊織いおり近習番きんじゅうばんで役付きだし、娘の幸枝も十八歳の、もうそろそろ縁付く年頃としごろになっている。少し頑固がんこなところはあるが、親切な老人として若手のあいだには評判のいい人物であった。そういう風に、別々に離してみると二人ともごくよい人間なのだが、さて、……この二人がいちど顔を合せたとなるとまるでひとがらが違ってしまう、二人が同座するとたんに、必ずといってもよいほどなにかしら口論がもち上るのであった。
つまり性が合わぬというやつである。どちらがどうというのではなくしぜんに、と云うのは変だが、実のところ極めて自然に、何かにか口諍くちあらそいが始るのだ。それでいて、かげでは二人とも相手を推称しているのだから、その関係はなんともふしぎなものであった。市郎兵衛はそれにいて自ら、――これはつまりへその問題だ、と云っていた。――臍には性格があって、曲ったのやゆがんでいるのや、大きいのや小さいのや色々とある、臍には他人のそら似というものがない。由来人格というやつは陶冶とうやしてこれを高めることも出来るが、臍は天然のものなので持って生れた性格は終生変ることがない、西郡至は人間としてはすこぶす有るやつだが、臍がねじくれているからわしとはどうしても性が合わぬのだ。そう云うのであった。
元禄げんろく十五年七月十二日、三河地方は大暴風雨に襲われ、矢矧川やはぎがわの堤防が六百五十間も決潰けっかいし、九千五百石あまりの田地を流した。直ちに作事奉行灰島市郎兵衛が命を受けて、復旧工事に着手したが、そのとき事務上の加役として、八木次郎太と西郡至の二名を選んだ。事務上の加役だから秘書のようなものだ、八木次郎太は才子はだの若者でいかにもそれにふさわしいが、西郡至を選んだというのがだれにも分らなかった。西郡は為す有るやつだと、日頃から蔭でめているくらいなので、なにか考えるところがあったのだろうが、果してこれが無事に納ってゆくものかどうか、まわりの人たちはそれを疑うというよりも、いまにきっと始まるぞという興味の眼をみはっていた。
城北、上里に灰島家の別墅べっしょがある。市郎兵衛は八月はじめ、その別墅を工事支配の仮り役所にしてひき移り、城下から通勤して来る西郡至と八木次郎太の二名を助手にして、自分はそこに起居しながら工事を督励していた。
――いまになにか始まるぞ。
という人々の期待ははずれなかった。二十日ほどはなに事もなく過ぎたが、九月に入る頃からそろそろあやしくなりだし、やがていちど、にど衝突が始まった。十月はじめのる午後のことである。市郎兵衛が左手に図面を持って、せかせかと部屋へ入って来るのを見た八木次郎太は、それまたやるぞとにやにやしながらようすを見ていた。はたして市郎兵衛は、
「是はなんじゃ、是は」
どもりながら、西郡至の机のそばへ近寄って行った。至は筆を持ったまま、
「なにごとです」と振返った。
「なにごとではない、この朱で書き入れてあるのはなんじゃ、誰がしたのだ」
「ああそれですか、それは拙者です」
「なんのためだ、十七番堤防の積石の数はもうまっておる、それなのにこの書入れは石の量を半分に減らしてあるが」
「そこはそうする方がよいのです」
「善い悪いをたずねているのではない、誰の指図でこんな勝手なことをするかと云うんだ、工事に就いては儂が、作事奉行として細大となく調べたうえ当っておる、それをなんの断わりもなくかような指図がましいことをして」
「お待ち下さい、拙者は奉行役を差措さしおいて勝手なことなどは致しません」
「是が勝手なことでないか、是が」

二人の声が高くなるとぐ、廊下の向うからそっと、娘の幸枝が様子を見に来た。……市郎兵衛が此処ここへ移るのと一緒に来て、父の世話をしたり、加役の人々に茶の接待などをする役を受持っている、ところがこのごろではそれよりも、父と至とのあいだに入って、うまく諍いを納める役の方が忙しかった。
貴方あなたは御存じないからそう仰有おっしゃるのです、実地に当ってお調べ下さい、……十七番堤防は流を受けるところです、此処を厳重に固め過ぎると流は倍の力で十八番の曲りへ当るため、逆にこの根を掘られてしまいます、……これは工事頭から念を押して来たので、拙者が立会いのうえ実地に調べ、その結果として当然の訂正をしたまでのことです」
「そ、それならばなぜ、その、一応その趣を儂に報告せんのか、それがつまり」
「拙者は作事奉行加役として貴方に選ばれてお役を勤めているのです、工事の小さい部分はもう少し拙者どもに、お任せ下さるのが当然ではありませんか」
「儂はなにも信用せぬとは云わん」
「ではそうむやみに呶鳴どなるのはして頂きたい」
「ほう、呶鳴ってはいかんか、儂は呶鳴ることさえできんのか、ではうやってここへ手でもついて」
いよいよ臍と臍とがむきだしになって来た、もうこうなるとあとは子供の喧嘩けんかのようなものである、肝心の図面などはほうりだして、むきになって詰らぬ口論を始めた。……そこへ幸枝が足早にやって来た。
「父上さま大変でございます」
「ええやかましい」
市郎兵衛は耳にもかけず、なおも勢いたってわめき続ける、幸枝はそのあいだへ割って入りながら、
「父上さま、頬白ほおじろです、頬白がかごから逃げだしました」
「……な、なんだと」
「お庭のかきに留っていますから早くいらしって」
市郎兵衛は小鳥道楽で、ことに近頃は頬白に夢中になっている、その大切な手飼いの鳥が逃げたというのだからあわてた。
「またそのほう、なにか……ええ何処どこだ」
「お庭でございます」
幸枝はすばやく、父を導いて其処そこを走り去って行った。やったなあという次郎太の含み笑いを聞いて、至がほっと額の汗をきながら向き直ろうとする、そこへ再び幸枝が足早にもどって来た。
「西郡さま、唯今ただいまはあい済みませぬ」
「いやそれは、拙者のほうこそ」
「父は御存じのような気性ですから、いつも貴方さまに向うとあの通りですの、でも本当はお頼り申しているのですけれど」つつましく云いながらこちらを見上げた。少しもうれいの色のない、初夏の空のような明るい眸子ひとみであった。しかもその明るい眸子のうちに、もうかなり以前から至にだけ訴えかけているほのかな感情が、ためらいがちに動きはじめていたのである。「父があのように我儘わがままになるのは西郡さまだけですの、本当にお気の毒でございますけれど、あのように勝手放題にできるのは西郡さまだけなのですから、……済みませぬけれど、どうぞおゆるしあそばして」
「いやそれはかえって赤面します、拙者こそ我儘者で、お父上に向うと妙に気が立って来るのです、実にこれは不思議なことなんですが」
「兄がそう申してりました」幸枝は笑いたいのを我慢しながら云った、「父上と西郡さまとは絵に描いたりゅうとらですって、喧嘩をしながらどちらも離れることが出来ないのですって」
「臍のひねくれている虎ですか」
至と幸枝はいっしょに失笑した。さっきから八木次郎太は、ねたまし気な眼で、二人の語りあうさまを見戍みまもっていた。もし見る者があったら、かなり不愉快な色をその眼の中に読むことができたであろう。……庭の向うで市郎兵衛が、「ちょッちょッちょッ、来いよ来いよ」と頬白を呼んでいる声が聞える。
「まだ鳥を追っていますわ」幸枝はそちらへ振返った。
貴女あなたのしたことですね、悪い人だ」
「でもあの時はそうするよりほかになかったのですもの」幸枝は悪戯いたずらそうにくすっと笑った、「あの鳥はよくれていますからすぐつかまりますの、おかげで頬白もよい保養ができます」
「おい西郡」次郎太が声をかけた、「ちょっとこの書類を見てれないか」
「ああ失礼」至が会釈えしゃくして向き直ると、「まあ忘れておりました、すぐお茶に致しましょう」そう云って幸枝も立って行った。
それから四五日った。或る日のことである、勤を終えて帰る途中、日名村というところの松並木へさしかかったとき、八木次郎太が妙に気後れのしたようすで、歩調をゆるめながらふと、
「西郡、……実は貴公に頼みがあるのだがな」と云いだした。
「なんだ頼みとは」
「それが、云いにくいことなんだ、武士として実に云いにくい事なんだが……」

「なんだか云ってみたらいいじゃないか」
「笑わずに聞いて呉れ、貴公を見込んで頼むのだ、……実は、拙者、……以前から幸枝どのを家の妻に迎えたいと思っていた」
「…………」
至の眼がそのとき見えるほど曇った。
「未練な話だが、此頃では幸枝どののことで頭がいっぱいなのだ、どうにもたまらない、仕事も手につかぬ始末だ、こんなことを云うのも貴公を朋友ほうゆうと頼むからで、なんとも恥かしい次第だが、貴公に縁談の申込みをしてもらいたいと思ってな」
至はぐっと、くちびるんだ。――聞いてならぬ事を聞いた。そういう後悔が胸をめつけた。
「どうだろう」次郎太は眼のすみで至の表情をうかがい、そして声にはほとんど哀調を含めながら云った「貴公なら必ずひとはだいで呉れると思って頼むのだが、引受けては貰えないだろうか」
「……承知した」至は外向そむいたままで答えた、「……まとまるか纏まらぬかはわからない、然し話だけは取次ごう」
「そうか、やって呉れるか、かたじけない」
次郎太はそう云いながら、唇の端で微笑した。
家へ帰った至は母親が怪しむほどようすが変っていた。くなった父は厳格一方であったが、母親の夏女は甘すぎると思われるほど至を溺愛できあいしている、そして至もまた、母というより姉に対するような気持で、どんな事をも打明けて共に喜憂を分って来た。然し其日そのひのことだけは別であった。幸枝のようすのなかに訴えかける感情のひらめきがあったのと同様、実は彼もまた以前から並ならぬ愛情を感じていたのだ。……そればかりではない、つい半月ほどまえに至はそれとなく、母の気をひいてみたことさえある。
――ねえおたあさん。なにかあまえることがあるとき、彼は幼いじぶん呼んだ呼び方で母を呼ぶ。――灰島にいい娘がいるのですがねえ、十八だそうですが、気性のしっかりした、利口そうな娘なんですよ。
――なんだえ至。とそのとき母親はあきれたように云った。――灰島の幸枝さんならおまえ知っているはずではないか、去年まで家へ琴を習いに来ておいでだったではないの。
――へえぇ、家へ来ていたんですか。
至はびっくりしたように眼をみはった。母親は琴に堪能たんのうで、以前から家中の娘たちに手ほどきをしてやっていた、去年ふとしたことで指を痛めてからはめているが、それまでは常に十四五人の娘たちが稽古けいこに来ていたのである。然しそのなかに幸枝がいたことなどは、むろん至は気付きもしなかった。――なんだ、そんな縁があったのか。それならいざとなれば話は楽に出来ると考えていたのである。
それが今日になって、思いがけぬところから根こそぎくつがえされたのだ。聞かないまえならどうにでもなる、然しああして頼まれてしまったうえはもうすべては終りだ。朋友と見込んで頼むと云われた以上、いやおれの方がそう思っている。などとは絶対に云えないし、また恥を忍んでうち明けたものを拒む訳にもいかない、いくら考え直しても逃げ道はなかった。
気遣って色々と問いかける母をらして、そのあくる日、彼は胸に鉛のたまがつかえているような重い気持をいだきながら、いつもより半刻はんときも早く出仕した。市郎兵衛は庭で小鳥にえさを与えていた。
「お早うございます」
「おお早いな」振返った市郎兵衛は、先日のことなどけろりと忘れたようすで、持っている頬白のかごを差出しながら云った。「こいつだよ、このあいだ逃げたのは」
「…………」
「いちばん馴れている癖に油断をするとぐにとび出す、たかにでもつかまれたらどうする積りか、まるで気心の知れぬやつじゃ」
「実は……少々お話があるのですが」
「なんじゃ、聞こう」市郎兵衛は籠を置いて、如露じょうろでさあさあと灌水かんすいしてやりながら促した、「……なんじゃ」
「此処では申上げにくうございますが」
「構わん構わん、なんの話じゃ」
「実は、……幸枝どののことですが」
市郎兵衛は如露を止めて振返った。老人の眼にはありありと、期待していたものにぶっつかった人の感動が現われた。
「待て待て、まあ彼方あっちへあがろう」そう云って大声に、「幸枝、幸枝は居らぬか」と喚きたてた、「此処へ参って片付けて呉れ、儂は用事が出来たから、よく気をつけて、また逃がさぬようにするんだぞ」

「さて聞こうか」居間にすわると直ぐにそう促した。
「申上げます、若輩者がかようなことを申上げまして、あるいはお怒りを受けるかも知れませんが」
「なになに、その遠慮は無用じゃ」
市郎兵衛はたいそう上機嫌じょうきげんである。
「実は、幸枝どのを」といたるは苦いものをむようにった、「家の妻に頂戴ちょうだいしたいという者がいるのです」
「うん」老人のが細くなった。
「自分からこうと申上げにくいから、拙者に是非とも取次いで呉れと頼まれ、よんどころなくお願いにあがったのですが、承知してやって頂けませんでしょうか」
「すると、嫁に欲しいという当人はだれだ」
「八木次郎太でございます」
市郎兵衛の顔がみるみるうちに赤くなった。ほんの一瞬まえまで上機嫌だったのが、まるで殴られでもしたように、額まで赤くすさまじい怒気を発して来たと思うと、
「……こ、この、出過ぎ者が」と声いっぱいに呶鳴どなりたてた、「其方はなんだ、どれだけの人間だ、いやどれほどの人間だというのだ、まだ前髪の跡も消えぬ若輩の身で、他人の縁談の仲立ちをするとは笑止千万、出過ぎるぞ西郡」
「ですからそれは、それゆえおしかりを受けるかと」
「なにがお叱りだ、身のほどをわきまえろ身のほどを、縁談などというものはな、おのれの身の始末がついて、一人まえの世間付き合いが出来る者のすることだぞ、其方はなんだ、自分の身もかたまらぬわば半人まえの」
「呶鳴るのはおし下さい」至もそろそろ始まって来た、「拙者が若輩者だということは自ら認め、初めにそうお断わりしてあります、なにも好んで縁談を持ち込んだのでもなし、仲立ちをしようと申上げたわけでもありません、八木に頼むと云われて是非なく、ただ彼の望んでいるところをお取次ぎ申しただけです」
「それ、そ、それが出過ぎ者だと云うのだ、分を知っている者ならそんな話は辞退するのが当然、だいたい其方は先日のことにしても出過ぎておる、なにがゆえに」
「先日の話とこれとは違います、これは」
「違わん、わしが云うのは其方が出過ぎ者で」
「失礼ですが呶鳴るのは止して下さい」
「呶鳴ろうと呶鳴るまいと儂の勝手だ、儂の呶鳴るのまで邪魔をするな、貴様は自分でぎゃんぎゃん喚いていながら他人ひとのことは直ぐに呶鳴るのなんのと申す、役目の方でもその通り、実際貴様くらい使いにくいやつは二人といないぞ」
「拙者も同様です、上役として貴方あなたくらい仕えにくい人はありません」
「なに、な、なに、儂が仕えにくいと」老人は眼をいた。
「しばしば我慢のならぬことがあります」
「云ったな、よ、よし」竜はついに雲を呼び、とらは風を巻き起してしまった。人々の興味をもって期待していた瞬間がやって来たのである。「よく申した、では直ぐに加役を辞退しろ」
「拙者にとってもその方が仕合せです、幸い受持ち分もひとかたついたところですから、その始末をして直ぐおいとまを致します」
「おう、此方こっちもそれでさっぱりするわ」
きびきびと話がついてしまった。
役部屋へ退いた至が、受持ちの仕事を片付けているところへ、ようやく八木次郎太が出仕して来た。挨拶あいさつをされたが、至は返辞もせずに片付け物に掛っていた。そして一刻あまりかかってやっと始末を終えた至が、自分用の筆硯ひっけんを纏めて包むのを見ると次郎太は不審そうに「どうした、なにかあったのか」とたずねた。至はむっとした顔で、冷やかに立ちながら答えた。「昨日の話は、一応取次いでおいた」
「ええ……もうか」
「然し取次いだだけだ、正式のことは内田老職にでも頼むがいい、あの人なら灰島殿のにがてだからうまく運ぶだろう、拙者は今日限り加役御免だ、あとの事は頼むぞ」
「加役御免、然しそれはどうして」
「貴公の知ったことではない」云い捨てて行こうとしたが、「注意して置くが、老人がなにか呶鳴っても相手になるなよ、あの人は、ときどき訳もなく呶鳴りたくなるんだ、逆らわずにおけば直ぐに納まる、本心は善人なんだから」
そう云って足早に立去った。

菅生川すごうがわの水が、小春日の暖かい光をあびて、さざなみをたたみながら流れている。遠く西南のかなたに、城下町の屋根をぬいてお城の天守が、逆光のなかに明るくかすんでいる、至は枯れたあしの茂みの間に腰をおろして、水面に垂れた二本の釣竿つりざおを、ぼんやりとみつめていた。うっかりすると眠くなるようなよい日和ひよりである。葦切よしきりがけたたましく鳴いて飛んだ。作事奉行の加役を退いてから六十余日、あれ以来とみにひまが多くなったので、非番になると彼はこうして釣に出て来る。そう云っても魚を釣るのが目的ではなさそうだ、なにしろずいぶん出掛けて来ているが、まだ小さなふなを二三尾まぐれ当りに釣ったばかりで、大抵は空魚籠からびくを下げて帰る方が多い。――至は魚たちへお振舞いに行くんですね。と母親は笑っていた。
高い空でつぐみの渡る声がした。そして、そのあとのひっそりとした日中の静寂を縫って、韻の高い女の話声が近づいて来た。「ああ彼処あそこにいますよ」母の声である。――珍しい、母がこんなところへ。そう思って振返ると、堤の上を来るのは母だけではなく、娘が一人いっしょだった。至はどきっと胸をうたれた、それは灰島のむすめ幸枝だったから。
「至、釣れましたか」母は明るく云いながら寄って来た、「幸枝どのが珍しくお見えだったから、青野の地蔵尊へお参りをしようと思って出て来ましたよ、おまえはまた相変らずのお振舞いですか」
「しばらくでございました」幸枝がそっと会釈えしゃくした、「……御機嫌ごきげんよろしく」
「しばらくでした、お変りもなく」至の声は冷たかった。
有難ありがとう存じます、貴方さまにも」
「この子の釣りはねえ」母は二人のあいだのこおったものをほぐすように、わざと明るい調子で幸枝に向って云った、「……魚を釣るのではなくて御馳走ごちそうをしに来るんですよ、こんな漁師ばかりなら魚たちも助かりますね」
「まあ小母さまがお口の悪いことを」
幸枝は遠慮がちに、そっと声をたてて笑った。
「ねぇ至や」母はふと調子を変えた、「……此処ここまでおれ申したけれど、幸枝どのはお疲れのようすだし、地蔵尊へはわたし独りでお参りして来ますから、少しのあいだおまえお相手をしていておれな」
「いや、母上、それはしかし」至はびっくりした。
「いいからお相手をしてあげてお呉れ、すぐもどって来ますよ」母は※(「目+旬」、第3水準1-88-80)めまぜをして、幸枝にもすばやくうなずきながら、青野村の方へと去って行った。
至は黙って竿のさきを覓めていた。幸枝も無言のまま悄然しょうぜんとそこにたたずんでいた。今日のことは幸枝が運んだのである、夏女にすがってこういう機会を作ってもらうには、武家の娘として並ならぬ決心が必要であった。幸枝はそれをあえてした。――おくしてはならぬ。敢てしたその決心が、さてその場になるとたじたじとなってしまう、然し機会は今の瞬間しかない、この時を外しては再び口にすることのできない言葉を持って来ているのだ。
「……西郡にしごおりさま」幸枝はついに思い切って呼びかけた、「わたくしいつぞや貴方さまが、父に仰有おっしゃっていたことを伺いました、お声が大きかったので聞えてしまいましたの、それで、八木さまとの縁談がきまりましたので」
内祝言ないしゅうげんが済んだとか聞きましたね」至は向うを見たまま云った。
「いいえ、まだですわ、矢矧川やはぎがわの工事が終りましたら、内祝言を致しますの、もう間もなくだと申しますけれど」
「仲人は誰でした、内田殿でしたか」
「……西郡さま」幸枝は蒼白あおざめた顔をきっとあげた、「……貴方さまは、初めにこの縁談をお取次ぎなさいました、それでお伺い申上げるのですけれど、八木さまはわたくしの良人おっとふさわしいと思召おぼしめしまして」
「お待ちなさい、拙者が取次いだのはそういう意味ではない」
「いいえ、わたくしの伺いたいのはそのことでございます、八木さまは、幸枝の一生を託してよいお方でございましょうか、もしも貴方さまがそうだと仰有るのでしたら、そうする方がよいと仰有るならば」
「拙者はなにも云いません」至は水面を見たままさえぎった、「拙者になにが云えますか、これは貴女のことだ、もう貴女も子供ではない、自分の生涯しょうがいのことは自分で解決すべき年になっています」
「貴方のご返辞はそれだけですの」
「……これだけです」至は眼を伏せた。
「なにもほかに仰有って下さることはございませんの、わたくし今日は自分にできるだけの決心をして来たのです、小母さまにお願いして、此処へ参ったのは、もっと、もっと御本心を」
至は返辞をせずに、竿をあげて餌を換えにかかった。……逃げるように、幸枝の去ってゆく柔かい跫音あしおとが聞えた。

母親は間もなく戻って来た。そして娘の姿が見えないので不審そうに、「至、幸枝どのはどうなすった」と息子の眼を見究みきわめるようにした。
「いま帰ってゆきました」
「おまえ、……なにか話があったろうね」
「いやなにも」至はじっと水面を覓めていた、「べつになにも……」
母親はなにか云いたそうであったが、思いあきらめた風に、幸枝の後を追ってゆこうとした。……そのときである、四五間下の方ではげしい水音が起り、「ぎゃあ」という子供の悲鳴が千切れたように聞えた。
「あ、誰かちたのではないか、至」
「見て来ます」至は立って走っていった。
四歳あまりの子供が、ひょいと水面に頭を出し、もういちど、水を含んだ悲鳴をあげると、すぐにまた流のなかへ沈むのが見えた。「早く、至や、早く」追いついて来た母親が叫ぶあいだに、手早く裸になった至は、流れの速さを計りながらさっと水へとび込んだ。ほとんど同じとき、向うの枯蘆かれあしのあいだから、紙のように白い顔をした武家風の若い女が一人、髪を振乱し、のどをふり絞るような叫び声をあげながら、裾前すそまえみだれるのにも気づかぬようすでけんめいにけつけて来た。「ああ、坊が、坊が、ああ」と狂気のようにそのまま水際みずぎわへ下りようとする、夏女は危うくそれを抱止めた。「お待ちなさい、もう大丈夫です」
「放して下さい、坊が、坊が」女は烈しく身をもがいた。
「大丈夫ですから、貴女あなたは此処にいらっしゃい」
こう云っているうちに、早くも至は子供を抱いて水面へ浮き上って来た。すると女は、夏女の手を振放して水際へせ下り、至が泳ぎ着くのを待ち兼ねて、まるで奪い取るように、両手で子供を自分の胸へひしと抱きめた。
「水を吐かせなくてはいけません」至は痛ましげにまゆをひそめた、「……たいしてんでもいないようですが」
「こちらはわたしが手伝ってあげます、いいからあなたは早く着物を着ておいでなさい、風邪をひくといけませんよ」そう云って夏女は女のそばへ寄っていった。
至は堤の西側へ下り、日溜ひだまりの暖かいところでからだをきはじめた。すぐに子供のせきを切ったような泣き声が聞えて来た。「……助かったな」小さな肺いっぱいの力で泣く子供の声を聞くと、至はさっきからの胸のつかえが、すっと消えるようなすがすがしさを感じた。……着物を着て、解いた髪の水をごしごし拭いていると、堤の向うでなにか母親と女の話しているのが聞えて来た。低く途切れ途切れになった子供の泣き声を縫って、ふたりの話し声はなにかしらん妙に耳へ刺さるようなものをもっていた。――どうかしたのか。そう思いながら、簡単に髪を結んで堤を登ると、母親がこちらへ振返って眼で招いた。
「どうしたのです」
「おまえお忘れか、これはかねですよ」
「……かね」彼にはちょっと思い出せなかった。
「家にいたあのかねですよ」
至はあきれて女を見た。かねは母がとくに愛して、身近に使っていたはしためである、気性のよい、縹緻きりょうも十人並に優れた娘で、――あれなら妻にしてもいいな。などと出入りする若侍たちに騒がれたくらいであった。三年まえに江戸の方へ縁づくからと、暇を取って去るときには、母は自分の娘にするほどの支度をしてやったものだった、それ以来ずっと消息が絶えていたのである。
「ほう、これは奇遇だな」至は眼をみはった、「おまえ江戸へ嫁にいったというが、いつから此方へ来たんだ、見れば武家風で、……侍の家へ嫁いだのか」
「若さま、お恥しゅうございます」女は叫ぶように云いながら泣き伏した。
かねは江戸へ行ったのではないのだよ」
「それはまた、どうした訳です」
「ずっと此処にいたのですと、此処で子を産んで、今日まで世間に隠れていたのですと、約束した相手の言葉を信じて、いつかは晴れて世に出られるものと、その日の来るのを待っていたのですって」
「晴れて世間へ、……と云うとかねは」
「わたしが悪かったのですよ」母は口惜くやしそうに声を震わせて云った、「母がもっと注意していたら、こんな過ちはさせずに済んだでしょう、自分では娘のように眼をかけていたつもりでも、親身でないものは矢張りすきがあるのだねえ、そう考えると、母は、かねに済まなかったと思います」
「誰です、相手は誰ですか」至は眉をひそめた。
「八木次郎太どのです」
わっと、つきあげるようなかねの泣き声をって、こいのはねる音が聞えた。至はその水面にひろがる波紋を見ながら、かたくくちびるを結んでいた。

何処どこへ行くんだ」
「まあいい、黙って来ればいいんだ」
「然しもう暮れかかるし」
「なに、暮れれば夜、明ければ朝になるだけさ、別に驚くほどのことはないよ」
至は平然と歩いてゆく。……菅生川すごうがわの堤に沿って、道は城下からもう小一里も遠く来ている、すでに空は残照も黒ずんで、星が鮮かに光を増し始めていた。
「……待って呉れ」
八木次郎太が不意に立止まった、なにか思い当ったというつきである。
「なんだ」至はそのまま歩いていた。
「に、西郡、……洞村ほらむらへ行くのだな」
唇の色が変っていた。おびえた者のように体が震えだした。
「そうだよ洞村へ行くんだ」
「待って呉れ、ちょっと待って呉れ、これには訳がある、ちょっと複雑な事情があるんだ、貴公はなんと聞いたか知らぬが実は」
「なにも聞かない、拙者はなにも知らんぞ」至は静かな調子でった、「知っているのはただ可愛かわいい子供と、美しい優しい女房にょうぼうだけだ、可愛い子供じゃないか、丈夫そうによくふとって、くりくりとした利口そうな顔をして、……女房だってあのくらい美しく気の優しいのは珍しいぞ」
「待って呉れ、お願いだ、びはする、どんな方法でもとる、だが、このことだけは内密にして呉れ、もしこれが分ったらおれ生涯しょうがいはめちゃめちゃだ」
至は返辞をしなかった。次郎太は彼の後を追いながら必死の声で云った。
「己が此処で身をほろぼせば、かねも子供も不幸になるんだ、あの二人の将来は必ずいいようにする、誓って約束する、だから、西郡、どうかこのことだけは貴公の胸ひとつで忘れて呉れ」
「そうして灰島の娘をめとるというのか」
かねは承知して呉れたんだ、どうせ自分の身の上では正妻にはなれぬと諦めをつけているんだ、だから貴公さえ忘れて呉れれば」
「灰島の娘はどうだ」至は同じ歩調で歩きながら云った、「それを灰島の娘にも話したのか、かねという女があり、三歳になる子があるということを話したのか、幸枝さんがそれでもいいと云ったのか」
「ああ西郡それは、……それは」
「早く来い」至は冷やかに附け加えた、「日が暮れると足許あしもとが不自由だ」
「…………」
追い詰められた獣のような、残忍なものが次郎太の眼に光った。咄嗟とっさの決意である。足早に追いつきながら刀の鯉口を切ると、次郎太は抜討ちに、うしろから相手の背をねらってたたきつけた。夕闇ゆうやみ白刃はくじんが飛び、だっとからだと躯とがひとつになった。暖かな一日の名残りで、川面かわもから灰色の夕靄ゆうもやが流れて来る。二つの躯は、そのおぼろのなかで、影絵のように烈しくみ合うと見えたが、直ぐに至は次郎太を組み伏せていた。「……貴様のやりそうな事だ」
至は相手の首根を押えつけ、片手で大剣を※(「てへん+宛」、第3水準1-84-80)ぎ取ると、そのまま静かに立ち上った。次郎太は俯伏うつぶせに倒れたまま動かなかった。
「まさかと思ったが」至は裾をはたきながら、「やっぱり貴様は、貴様の手しか持っていなかったな、いつもこのとおり、人の油断につけこんではうまいことをしようとする、だがこれだけ出せば、もう貴様の悪智恵わるぢえも種切れだろう」
「……って呉れ」次郎太は泣きながらうめいた、「ひと思いに、己を斬って呉れ、己は、己はこんな人間なんだ、己はもう生きてはいられないんだ」
「斬っていいか、次郎太」
「…………」
「斬っていいか、本当に斬るぞ」
至は奪い取った大剣を振上げた。えい、という鋭い掛声と共に、白刃は次郎太の背へ打下ろされた。その刹那せつな、次郎太の体はぴくりと痙攣ひきつり、荒い呼吸がぴたっと止まった。……至は大剣を相手の側へ投出した。
「是でいい、貴様の命は至がもらった、生れかわって来るんだ次郎太、かねと子供は己が預るぞ」
「……うう、うう」
次郎太は再び低く呻きだした。
「貴様は人並み優れた才分があるじゃないか、今までのようにこせこせしなくとも、正面から堂々とやって充分出世のできる男だぞ。……やり直してこい、小さな不面目なんかなんだ、人間の値打は些細ささいな過ちなどで傷つきはしない、取返す方法はいくらでもあるんだ、かねと子供のことを忘れるなよ、わかったか」
そう云って、至は静かにそこを立去った。

濃くなった夕闇のなかに、まだ次郎太のすすり泣きを聞くような気持で、まっすぐに城下へもどった至は、その足で灰島市郎兵衛はいじまいちろべえの屋敷を訪れた。工事はほとんど終ったので、市郎兵衛はもう別墅べっしょを引払って来ていたのである。……至と聞いて幸枝がいそいそと出迎えた。
「お父上に申上げて下さい、お話があって参上つかまつりました、是非お会い下さいと」
「はい、しばらくどうぞ」
「ああ、あの話」行こうとするのを呼止めて、「……次郎太の話は御存じですか」
「はい、昨日、内田さまから」
光をたたえた眸子ひとみにいっぱいの感情をめながら、幸枝は至の眼を見上げた。
「そうですか、それで重荷が下りました、それさえわかっていればあとは楽です、おとついの、あの川端の返辞をしますよ」
「まあ……」ぱちぱちと眼が大きくまたたいた。
「どうぞ取次いで下さい」
幸枝はほおを染めながらいちど去って、すぐ案内に戻って来た。……市郎兵衛は居間で、正面を切って、これ以上むずかしい顔はないという渋面をつくっていたが、至が会釈えしゃくしながらすわると、ぐに、「用件を聞こう、多用じゃで手短かに」と吐き出すように云った。
「御多用でなくとも」至も切り口上だった「……申上げることは簡単です、色々ないくたてはありますが、そんなことはいま更いう必要はないと思います、幸枝どのを拙者の妻に申し受けます」
「なに、な、なに、幸枝を妻に申し受けると、だれると云った、誰の許しを受けて娶るというんじゃ、その方が貰う積りでもわしは遣らんかも知れぬぞ、だいいちその方のようなへそのひねくれた者と婿むこしゅうとになってみい、儂は腹の立ち通しでおそらく息つくひまもなくなるぞ」
「それは拙者から申上げることです、貴方あなたのような舅を持ったら、たぶん癇癪かんしゃくの納るときはないでしょう、しかし拙者は舅を貰いに来たのではありません、欲しいのは家の妻です、幸枝さんを頂きに来たのです」
「それその通りだ、その方はなんでも自分でめて、その定めた通りに我を押し切ろうとする、そのようすでは仲人なこうども独りぎめにして来たのだろう」
「仲人は御家老にお願いしました」
「か、家老だと、儂は大嫌だいきらいだぞ」
呶鳴どなるのはよして下さい、貴方の大嫌いも久しいものだ、いったいこの岡崎おかざき家中に貴方の好きな人物が一人でもいますか、貴方の云うのは定まっています、あいつは大嫌いだ、あれの臍は曲っている、もう沢山です、拙者は幸枝どのを妻に申し受けます、貴方が御承知なさろうとなさるまいと拙者の知ったことではありません」
「そういうやつだ、そ、そういうやつだ、黙っていれば他人ひとの娘を盗みだしもし兼ねまい」老人はむずむずと乗り出した。
「むろん、その覚悟はできています」
「なに、なに、それでは本気で盗みだす積りなのか、作事さくじ奉行の娘ともある者を、嫁入り支度もさせずにさらおうというのか」
「支度などは要りません、拙者は妻を娶るので、衣裳いしょう道具が欲しいのではありませんから」
「ばかなことを申せ、仮にも灰島市郎兵衛の娘を、下人のように身ひとつで嫁にやれると思うか、そんなことは儂が許さん」
「失礼ですが呶鳴らないで下さい、耳が割れますから」
「儂は呶鳴りたいときには呶鳴る、貴様の耳なんか勝手に割れろ、どんなことがあっても充分に支度をさせたうえでなくては嫁には遣らんぞ、分ったか、分らなければ分るように云ってやる、貴様は儂の婿になるやつだろう、儂は舅だ、舅はつまり父であって、子と親とは……」
さてこれでどうやら話はまとまったようだ。隣りの部屋でさっきからこのようすを聴いていた幸枝と伊織いおりは、此処ここまできたとき顔を見合せながらくすっと笑った。
「……幸枝……竜虎りゅうこついに相い結んだな」
伊織は妹の耳許でささやいた。
「これから二人とも遠慮なく、腰をえてゆっくりと口論が楽しめるだろう」