『ならぬ堪忍』

あらすじ
上森又十郎の甥・池野大六(15歳)は、石川重助との些細な喧嘩が原因で、果たし合いを決意する。侍としての誇りをかけた戦いを前に、大六の覚悟は揺るぎないものに見えた。しかし、叔父・又十郎は彼を説得し、「近いうちに戦が起こるかもしれない。その時にこそ命を使え」と諭す。大六はその言葉を信じ、重助に頭を下げて謝罪し、果たし合いを取り消す。
仲間からは「臆病者」と嘲笑されるが、大六は気にせず、戦に備えて鍛錬を続ける。ところが、1年が過ぎても戦は起こらなかった。騙されたと悟った大六は、又十郎に詰め寄るが、彼は静かに言う。
「お前は“ならぬ堪忍”を貫いた。侍にとって許されない堪忍はただ一つ、ご奉公を果たさぬことだけだ」
その言葉に、大六は自らの未熟さを悟る。侍の本分とは、誇りや意地のために命を捨てることではなく、主君に尽くし生き抜くことだったのだ――。