『彦四郎実記』

あらすじ
但馬豊岡藩の藩士・監物彦四郎は、剣の腕が立ち、普段は寡黙ながらも一度怒れば冷徹な微笑みを浮かべるという異質な男である。彼の強さは領内でも評判で、「彦四郎の剣を見て震え上がらぬ者は、豊岡の者ではない」とまで言われていた。
第一幕:娘を救え!孤高の剣士の決断
ある日、彦四郎は親友である余吾甚左衛門と釣りをしていた最中、遠くで悲鳴を聞く。駆けつけると、城下の海産物商「播磨屋」の主人・宇兵衛の娘であるお雪が、豊岡藩主の弟・杉原主計介の家臣たちに無理やり連れ去られようとしていた。
主計介は、藩主・杉原石見守長房の弟ながらも、部屋住みの身で鬱屈とした日々を送り、領民への乱暴狼藉が目に余るようになっていた。彦四郎は、主計介の家臣である鬼鞍伝八、柳太平、布目大蔵らと対峙し、瞬く間に彼らを打ち負かす。
この時、とっさの機転で彦四郎は「お雪は自分の許嫁だ」と言い放つ。主計介はその言葉に興味を示し、「ならば、正式に仲人を務めてやる」と言い残し、お雪を解放する。しかし、この方便が彦四郎の運命を大きく変えることになる。
第二幕:さらなる脅威!猛者・八太郎との対決
お雪には、もう一人彼女を許嫁と勝手に名乗る男がいた。船問屋の八太郎である。八太郎は、身の丈六尺五寸(約197cm)の巨漢で、30人力と噂される剛力無双の荒くれ者。お雪を自分のものにしようと躍起になっていた。
彦四郎は八太郎の挑戦を受け、激しい戦いの末に彼を圧倒し、完全にねじ伏せる。八太郎は彦四郎の剛力と技に恐れをなし、屈服する。こうしてお雪の身の安全は確保されたかに見えた。
第三幕:藩命と宿命の対決
この騒動の後、彦四郎は藩主・杉原石見守長房に呼び出される。そこで告げられたのは、なんと「杉原主計介を討て」という命令だった。
藩主の弟である主計介は、日頃の狼藉が問題視され、ついには藩主の忍耐も限界に達したのだ。しかし、主計介はお雪との婚礼の仲人を申し出た恩人でもある。彦四郎は苦悩するが、武士としての誇りを胸に、主計介と対峙することを決意する。
第四幕:壮絶な一騎打ち!剣豪の誇りを懸けて
彦四郎は、主計介の館に乗り込み、激しい剣の勝負を繰り広げる。主計介は名うての剣士であり、一撃必殺の剛剣を操るが、彦四郎の冷静な立ち回りの前に徐々に追い詰められる。
やがて、彦四郎は渾身の一撃で主計介を組み伏せ、命を奪うのではなく「領地を去る」ように諭す。これにより、主計介は自ら豊岡藩を離れる決意をする。
第五幕:新たな旅立ち
主計介は藩を去り、彦四郎はお雪と正式に夫婦となる。そして、お雪を連れ、主計介とともに新たな人生を歩む旅へと出る。
藩のしがらみを捨て、己の道を行く二人。旅立つ彦四郎とお雪を見送る宇兵衛や甚左衛門、家来の**忠平(ちゅうへい)**たちの目には、誇り高き男の姿が焼きついていた。
朝日が昇る中、新たな未来へと歩み始める彦四郎。その後ろには、お雪がしっかりと寄り添っていた――。