『日本婦道記 二粒の飴』

あらすじ
武士の家に生まれた貞代は、幼い頃に父を失い、母と弟・亀之助とともに過酷な生活を強いられる。母は「武士の誇りを忘れてはならない」と貞代に厳しく教えながらも、常に微笑みを絶やさず、子どもたちを支え続けた。
生活は困窮を極め、食べるものさえ満足に得られない日々。それでも母は、甘いものをねだることなく耐え抜くよう教え、武士の子としての誇りを持たせようとした。そして、母が亡くなる前夜、貞代と亀之助に「二粒の飴」を手渡す。
その飴は、母が長年「まだその時ではない」と自らに言い聞かせ、決して子どもたちに与えなかったものだった。母は、「今はもう別れの時。せめて一度だけ、あなたたちの喜ぶ顔が見たかった」と語りかける。
やがて貞代は成長し、結婚を控えたある日、母から受け取った二粒の飴を手に、未来の娘へと思いを馳せる。母の思いを次の世代へと伝えることが、自分の役目であると悟るのだった。
この物語は、親の愛と自己犠牲、そして子どもへの深い思いやりを描いた感動作。たった二粒の飴に込められた、母の強さと愛の深さが、胸を打つ一篇である。