『日本婦道記 襖』

あらすじ
西村次郎兵衛は、由緒ある武家の生まれながらも、幼い頃に両親を失った影響で気性が荒く、酒に溺れる日々を送っていた。そんな彼のもとに嫁いできたのは、武家の娘・阿市。剣術や芸事にも秀でた阿市は、夫を立派な武士にするよう託されて嫁ぐが、次郎兵衛は彼女に反感を抱き、あえて荒れた生活を続ける。
阿市は夫を叱るでもなく、ただ襖の隙間から静かに彼の姿を見つめるばかりだった。その行動の意味がわからず、次郎兵衛は不信感を募らせる。しかし、島原の乱への出陣が決まり、極限の状況下で彼は阿市の本当の想いを知ることになる。
次郎兵衛の乱れた暮らしを咎めるのではなく、無言の支えで見守り続けた阿市の覚悟とは何だったのか――。
襖越しに見つめ続けた妻の眼差しの意味に気づいたとき、次郎兵衛は真の武士の誇りと、夫婦の深い絆を知る。
山本周五郎が描く、無償の愛と支えの物語。