『日本婦道記 菊の系図』

日本婦道記 菊の系図 山本周五郎

あらすじ

幕末の動乱期、鶴岡藩に仕える重田主税は、藩校の助教として史学を教えながらも、密かに尊皇思想を説き、藩の改革を志していた。しかし、時代の波が押し寄せる中、幕府側の圧力が強まり、主税やその同志白滝外記らに危険が迫る。

ある夜、外記が藩を離れることを告げに来るが、主税は「この道のために初めから命は捨てていた」と覚悟を決め、鶴岡に留まることを決意する。妻のお琴も、夫の意志を理解し、「未練な振る舞いはしません」と静かに答える。

やがて、主税のもとに追っ手が迫り、屋敷に踏み込まれた主税は「道は滅びぬ!」と叫びながら壮絶な最期を遂げる。お琴は夫の遺体の前で涙しながらも、ひとり息子の保太郎(やすたろう)を守るため、冷静に行動する。追っ手に保太郎の居場所を尋ねられても毅然と嘘をつき、彼を守り抜く。

その後、お琴は保太郎を連れ、鶴岡を逃れて北陸へと向かう。長い逃亡の果てに、新潟の葛塚でようやく落ち着き、新しい生活を始める。夫が大切に育てていた菊を持ち運びながら、お琴は保太郎の成長を支え続ける。

やがて、成長した保太郎は武道と学問に励み、父の遺志を継いで国のために生きる道を選ぶ。神軍(新政府軍)に参加しようとするが、お琴は「心が未熟だから」と許さない。最初は反発する保太郎だったが、お琴の言葉に目を覚まし、過去の恨みではなく、純粋に国を思う心で戦うことを誓う。

旅立つ息子のために、お琴は庭に咲いた菊の一枝を折り、「父上と一緒にお帰りなさいませ」と心の中で祈る。その菊は、主税が守り続けてきた家の誇りであり、お琴にとっても家族の象徴だった。

幕末という激動の時代を生き抜いた、ひとりの女性の強さと家族の絆を描いた感動の物語。

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