『なんの花か薫る』

なんの花か薫る 山本周五郎

あらすじ

江戸の岡場所で身を売るお新は、ある夜、酒に酔った若侍江口房之助と出会う。房之助は宴席での喧嘩がもとで人を斬ってしまい、追われる身となっていた。お新は彼を匿い、その一夜を共にする。武家の世間知らずな若侍と、遊女として世を渡るお新——二人の間には身分を超えた淡い情が芽生えた。

それ以来、房之助はお新を訪れるようになり、彼女に「お前を嫁にする」と誓う。お新もまた、彼の言葉を信じ、朋輩の菊次やみどり、吉野、千弥、おせきたちの支えを受けながら、未来のために客を取るのをやめる。

しかし、房之助は藤堂家の武士。感状の件で一時感服されていたが、叔父である中原平学の取りなしによって許され、しかも二年前から許婚がいたことが判明する。お新はすべてを悟るが、朋輩のみどりは怒りを抑えきれず、房之助を罵倒する。

房之助はお新に向かい、あれはただの約束だったと弁解し、平然と去っていく。お新は泣くこともできず、彼の後ろ姿を見送った。そのとき、店先に活けられていたのは卯の花——彼女が無意識に思い出していた曽我物語の一節「つぼみたるは散りたるとや」。お新の恋もまた、つぼみのまま散っていったのだった。

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