『夏草戦記』

夏草戦記 山本周五郎

あらすじ

徳川家康の命により上杉攻めが開始され、伊達政宗は兵を率いて戦へと向かう。その中で、小谷弥兵衛率いる小谷隊は特別な任務を与えられ、隠密裏に敵地を突破し白石城へ迫るべく進軍していた。だが、彼らの行動は敵に筒抜けになっており、夜襲を受けながらの過酷な行軍が続く。

そんな中、隊士・三瀬新九郎は、かつて棚倉で野武士に襲われていた娘・初を助けたことがあった。父を亡くした彼女は、新九郎に礼を述べるため、そして安全な道を求めるため、兵たちの後を追っていた。

しかし、新九郎はある疑念を抱く。敵の襲撃があまりにも正確すぎるのだ。誰かが内通しているのではないか? 彼は友人の戸田源七と共に密かに調査を始める。やがて、新九郎は小谷隊の副将・相良官兵衛が密かに敵と通じ、隊の情報を漏らしていたことを突き止める。そして、夜闇に紛れて密談の場を押さえ、官兵衛を討ち果たすのだった。

しかし、新九郎はその事実を仲間に明かさず、立ち番の掟を破った罪を自ら受け入れる。軍規に従い、翌朝、新九郎は処刑された。彼の墓は夏草の茂る静かな場所に作られ、初が供えた花とともに埋もれていく。

名を残さず、己の信じる正義を貫いた男——新九郎の魂は、夏草の下で静かに生き続けるのだった。

書籍

created by Rinker
¥99 (2025/04/19 21:32:52時点 Amazon調べ-詳細)

朗読


山本周五郎YouTube朗読チャンネル

本文