『つゆのひぬま』

つゆのひぬま 山本周五郎

あらすじ

江戸・深川の外れにある佃町、通称「アヒル」と呼ばれる土地に、娼家「蔦屋(つたや)」があった。その女主人・お富のもとで働くのは、最古参のおひろ、陽気なお吉、賢く口のうまいおけい、そして物静かで真面目なおぶんの四人だった。

ある日、絶望したような顔をした男・良助が「蔦屋」の客として訪れる。彼は品川の漁師の子に生まれ、幼い頃に母親に捨てられ、苦労の末に料理屋で働いていたが、長年の奉公も報われず、希望を失っていた。そして彼は、押し込み強盗を決意し、そのための短刀を懐に忍ばせていた。しかし、おぶんの優しさに触れたことで、すぐには行動に移せず、道具を彼女に預けてしまう。

やがて、おぶんは良助の生い立ちを知り、彼に自分の兄の姿を重ねていく。兄・益次は幼い頃から足が不自由で、不器用な職人として苦しみ、最後には父を殺し、自ら命を絶ってしまった。良助もまた、世間に踏みつけられ、行くあてもない運命を辿っていることに気づいたおぶんは、彼に「もう一度だけ考えてほしい」と必死に訴える。

そんな矢先、大嵐が町を襲い、「蔦屋」は水に浸かってしまう。屋根の上で助けを待つおぶんとおひろのもとへ、良助が小舟で現れる。おぶんは、彼が自分を迎えに来てくれたことに涙し、船に乗るが、おひろは「私は店を預かる身」と言い、残ることを決める。そして、おぶんの懐に、自らの蓄えた金を押し込み、「二人で生きるのよ」と静かに送り出す。

暗闇の中を、舟はゆっくりと進んでいく。おぶんと良助の未来はまだ見えない。それでも、彼らの頭上には星が輝いていた。

書籍

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