『大将首』

大将首 山本周五郎

あらすじ

浪人・池藤六郎兵衛は、剣の腕を持ちながらも長年仕官の機会に恵まれず、貧しい生活を送っていた。しかし、彼を支える妻・文江は、どんなに苦しくとも夫の夢を信じ、耐え忍んでいた。

ある日、六郎兵衛は岡崎藩の植村弥兵衛の口添えで足軽奉公の仕事を得る。しかし、彼は妻に「五石五斗取りの武士として仕官した」と嘘をつき、足軽であることを隠しながら生活を続ける。そんな中、貧しさに耐えかねた浪人・佐藤主計が、六郎兵衛を襲う。しかし、彼の剣の腕を見抜いた六郎兵衛は、主計を討つのではなく家へ連れ帰り、語り合うことで励ます。主計は奮起し、再び剣の道を志すことを誓って旅立った。

足軽としての生活に馴染んできた六郎兵衛だったが、同僚の鷺山伝造らの間で「仕官したと言いながら実は足軽奉公をしているらしい」という噂が立つ。しかし、彼は動じず、妻のためにこの道を選んだのだと堂々と語る。その言葉に仲間たちは感銘を受け、次第に彼を敬うようになった。

ある日、六郎兵衛は足軽の仕事で竹を運んでいる最中、岡崎藩の剣術師範役である大横田主膳とその弟の采女、道之助の三人と道で遭遇する。主膳は彼を足軽と見下し、道をふさいでいた竹束を乱暴に払いのけ、六郎兵衛を田んぼに突き落とす。怒りに燃えた六郎兵衛は即座に立ち上がり、三人に斬りかかり、剣の腕で次々と打ち倒す。

この一件で六郎兵衛は投獄されるかと思われたが、実は大横田兄弟は岡崎藩内で悪事を働いていた罪人であり、すでに討伐の命が下っていた。六郎兵衛は結果的に岡崎藩に大きな功績を立てたことになり、藩主から正式な仕官の命を受ける。

家に戻った六郎兵衛は、文江に自分が足軽奉公をしていたことを打ち明けようとするが、文江はすでにすべてを察していた。そして、夫の決断と努力に心から感謝していたのだった。こうして六郎兵衛は、ついに本当の意味で「武士」としての道を歩み始めるのだった。

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