『将監さまの細みち』

将監さまの細みち 山本周五郎

あらすじ

江戸・赤坂田町の岡場所「染井家」で働くおひろ(おその)は、病気の夫・利助と幼い息子・政次を支えるために、特別に通いで稼ぐ遊女です。彼女は、自分の仕事を知らない夫と子どものために懸命に働きながらも、店の女たちおまさ、幾世、文弥から疎まれ、孤独な日々を送っています。

ある晩、おひろは岡場所での接待中に、客からしつこく酒を勧められ、深酔いしてしまいます。その客の一人は、偶然にも彼女の幼なじみであり初恋の相手常吉でした。翌朝、常吉はおひろに「2年前からお前を探していた」と語り、夫と別れて自分と一緒に生きてほしいと申し出ます。常吉は、おひろのために十両もの大金を用意し、病気の利助を実家のある木更津へ帰すよう説得します。

一方、金六町藤川屋の岡っ引が、おひろの稼ぎ先を確かめに家を訪ねたことで、利助は妻が岡場所で働いていた事実を知ります。逆上した利助はおひろを殴りつけますが、同時に自らの無力さと怠惰を痛感し、ついに仕事を探す決意をします。彼は知人を頼り、牙の番人(荷役場の管理人)の職を得る話を進めます。

おひろは、常吉の申し出を受け入れるつもりでしたが、利助が「もう一度やり直したい」と涙ながらに語る姿を見てしまいます。その瞬間、おひろは自らの運命を悟り、常吉との新しい人生を諦める決断をします。

物語の終盤、おひろは岡場所を辞め、利助と政次とともに新しい生活へ向かおうとします。夜、おひろは政次を寝かしつけながら、**「将監さまの細道」の童歌を静かに口ずさみます。しかし、彼女は心の中で「この歌はもう一生歌わない」**と誓うのでした。

過去への未練と未来への希望が交錯するなか、おひろは「生きる」ことを選び、夫と子どもと共に新たな道を歩み始めます。

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