『金作行状記』

あらすじ
🔹 義を貫く武士と猛将の対決、そして一人の娘の運命とは――
明石藩の近習番頭・大信田金作は、寡黙で飾り気がなく「鈍牛」とあだ名される武士。ある嵐の夜、金作は道端で倒れた一人の娘・波江を助ける。彼女は故郷を離れ、頼る宛もなくさまよっていた。金作は彼女を屋敷に迎え入れるが、波江は密かに彼への思いを募らせていく。
一方、藩内では剣の腕を見込まれ異例の出世を遂げた直心影流の使い手・猪塚幸右衛門が横暴を極めていた。彼の振る舞いは次第に周囲の反感を買い、特に神経質な若い武士・宇野文弥との間で対立が激化する。やがて文弥は幸右衛門に挑むが返り討ちにされ、辱めを受けた末に藩を去る。
この騒動の処分として、藩主・但馬守直常は幸右衛門の領地召し上げと追放を命じる。しかし、納得できない幸右衛門は処刑役の河口源十郎と曽根正之助を斬り、城外の砦に立てこもる。
事態の収拾を命じられた金作は、友人の神田市之進と共に幸右衛門の元へ向かう。しかし、金作は彼を討つのではなく「最後くらい武士らしくしろ」と説得し、潔く切腹する道を選ばせる。幸右衛門は観念し、金作に介錯を任せることを決意するのだった。
藩主・直常はこの裁きを称賛し、褒美を取らせると言うが、金作は辞退する。その代わり、直常は密かに奪っていた金作の家宝「松風の茶壺」を返し、さらに金作が助けた娘・波江を妻として与えた。
こうして金作は、己の信念を貫きながらも、思わぬ形で新たな人生の伴侶を得ることとなる――。
義と誇りを貫く武士の生き様を描いた、山本周五郎の傑作時代小説。