『勘弁記』

あらすじ
岡山藩士・周藤新六郎は、ある夜、友人の印東弥五兵衛に誘われ、旭川のほとりへ連れ出される。そこで弥五兵衛が見せたのは、試し斬りの標的として囚われた乞食の男だった。しかし、その男はただの乞食ではなかった。
彼の名は松野金五郎。父である松野金右衛門を闇討ちにより殺され、復讐の機会を窺う浪人だった。しかもその仇こそ、新六郎の義弟であり、岡山藩の新参士である**楯岡市之進(飯沼外記之介)**だったのである。
市之進は過去に金右衛門を討った理由を「若気の過ち」と認めるが、それ以上の説明はしない。しかし、弥五兵衛が卑劣にも金五郎を騙し討ちにしたことで、新六郎の怒りは頂点に達する。「勘弁」とは何か?武士の誇りとは何か?——新六郎は、弥五兵衛と市之進を討つ決意を固める。
義理の妹さだは市之進の子を身籠っていたが、新六郎は「それでも仇討ちは果たす」と誓い、二人に果し合いを申し込む。しかし、市之進と弥五兵衛はこれを拒絶。新六郎は単身、彼らの屋敷へ乗り込み、壮絶な戦いの末に両者を討ち果たす。
傷を負った新六郎の前に現れたのは、岡山藩主・池田光政。光政は新六郎の行動を理解し、「戻るまで閉門を申しつける」とだけ命じる。その言葉には、新六郎の義を認める藩主の慈悲が込められていた。
己の信じる正義を貫いた新六郎は、涙ながらに感謝し、ただ静かに頭を垂れるのだった——。