『かあちゃん』

あらすじ
江戸の貧乏長屋に暮らすお勝は、夫を亡くした後、5人の子供たちを育てながら必死に働いていた。長男の市太は大工、二男の次郎は左官、三男の三郎は魚河岸で働き、長女のおさんは仕立物をこなし、末っ子の七之助までもが小銭を稼ぐほど、家族全員で力を合わせて生活を支えていた。
ある夜、そんなお勝の家に一人の男が忍び込む。男の名は勇吉。極度の貧しさに追い詰められ、盗みに入ったのだった。しかし、お勝は騒ぐことなく、むしろ彼を迎え入れ、温かいうどんを振る舞う。お勝の優しさに触れた勇吉は涙し、そのまま家族の一員として迎えられることになる。
一方、お勝たちが長年節約しながら稼いできたお金は、源さんのためのものだった。彼は市太の同僚で、大工仲間だったが、生活に困ってつい盗みに手を染め、牢に入れられていた。お勝たちは、源さんが出所したときに新しい生活を始められるようにと、貯めたお金で店を構える準備を進めていたのだ。
やがて、出所した源さんとそのかみさんが長屋を訪れる。お勝は彼らに貯めたお金を渡し、店を開く手助けをする。源さんは涙を流し、深く感謝するのだった。
そんな中、勇吉は自分も家族の一員として働き、独り立ちしたいという思いを抱くようになる。そして、やがて左官の仕事を学び始め、真っ当に生きる道を選ぶ。
貧しくても、人を思いやる心と助け合いの精神があれば生きていける。お勝の強さと優しさが、人の人生を変え、家族の絆をより深めていく――そんな江戸の長屋の温かな人情物語。