『落武者日記』

落武者日記 山本周五郎

あらすじ

関ヶ原の合戦で西軍が敗れ、石田三成の家臣 大畑祐八郎 は、同士の 田ノ口義兵衛 と共に主君の行方を追いながら、戦場を脱出します。しかし、厳しい追跡と疲労の中、義兵衛は力尽き、最期の言葉で 「小早川秀秋の裏切り」 の無念を叫びながら息を引き取ります。祐八郎は友の死を嘆きながらも、なおも沢山城を目指して逃亡を続けます。

山中を彷徨い、衰弱した祐八郎は、一人の若い農家の娘 まつ に救われます。まつは病気の父と暮らし、親切にも祐八郎を匿い、看病してくれます。まつの優しさに触れるうち、祐八郎は戦乱で失った亡き妻 若菜 を思い出し、彼女への想いを募らせます。また、まつの兄 柏山条助 も石田軍に加わっていた可能性があり、まつは兄の生死を案じています。

しかし、やがて追っ手がまつの家に押し入り、祐八郎を捕らえます。彼はまつを守るため、「まつは脅されて自分を匿っただけで、彼女に罪はない」と必死に訴えます。祐八郎は捕縛され、 徳川家康 のもとへと送られます。

家康は祐八郎に石田三成の行方を尋ねますが、祐八郎は侍の誇りを守り、何があっても口を割らない覚悟を見せます。その気概に感銘を受けた家康は、意外にも祐八郎を許し、 「縄を解け」 と命じます。そして、「そのような主君を持つ者は幸せだ」と言い残し、彼を解放します。

自由の身となった祐八郎は、再びまつのもとへ戻ります。まつは彼を温かく迎え入れ、「しばらくここで傷を癒してください」と願います。祐八郎もこれを受け入れ、当面は農家に身を寄せることを決めます。しかし、彼の背後には家康が放った隠密の目が光り、今後の行動を監視されています。

敗れた武士としての誇りと、新たな生活への希望。
祐八郎は、まつの家での静かな日々の中で、これからの生き方を模索するのでした。

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