『江戸の土圭師』

江戸の土圭師 山本周五郎

あらすじ

江戸時代、三次郎は並外れた技術を持つ若き時計職人。しかし、彼の仕事はあまりにも精密で独創的なため、時間がかかりすぎ、常に貧困に苦しんでいた。

ある日、薩摩藩・島津家から「9月までに最高の時計を作る」という大仕事が舞い込む。三次郎はこの機会に、時刻に合わせて六段の調べを奏でる「歌時計」の制作に挑むが、難航する。一方、同じ依頼を受けたライバルの灘屋七之助や和田貞次郎は順調に仕上げに入っていた。

貧困と焦燥に追い詰められた三次郎は酒に溺れ、ついには女房のお兼にも見放される。絶望の中、南京芸人の剣投げ芸を目にし、その真剣な眼差しに打たれる。彼らの命を懸けた姿に、自らの甘さを思い知らされた三次郎は、かつての育ての親である徳兵衛を訪れ、「本物の職人」になりたいと涙ながらに誓う。

再び時計作りに向き合った三次郎は、見事に「歌時計」を完成させ、島津家の御抱え時計師として迎えられる。祝いの宴が開かれる中、ひっそりと戻ってきたお兼は、涙ながらに「もう一度やり直したい」と願う。

その瞬間、仕事場から六段の調べが流れる――三次郎の技術と誇りが、ついに時を刻み始めたのだった。

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