『法師川八景』

あらすじ
江戸時代、城下に暮らす伊田つぢは、書院番頭・伊田勘右衛門の娘として、慎ましくも誇り高い生き方をしていた。しかし、彼女は身分違いの武士・久野豊四郎と恋に落ち、密かに夫婦の約束を交わす。しかし、豊四郎の家は彼との結婚を認めず、さらに豊四郎は不運な事故で急逝してしまう。
つぢは豊四郎の子を身籠るが、父・勘右衛門の激しい怒りを買い、家を追われることとなる。彼女の母ちよや弟良一郎も事情を知りながらも、父の厳しい態度に逆らうことができない。つぢは、伊田家の下男・太助の実家である笈川村の万兵衛の家に身を寄せ、孤独な出産に臨む。
一方、つぢには許婚(いいなずけ)佐藤又兵衛がいた。彼は久野家と深い関わりがあり、つぢと豊四郎の関係を察していた。又兵衛は、つぢに対する複雑な思いを抱きながらも、彼女の強さを見守り続ける。
やがて、つぢは男児吉松を出産する。時が経ち、豊四郎の母・きや女と父・久野摂津がつぢを訪れ、吉松を久野家の正式な跡取りとして迎えたいと申し出る。かつて彼女を冷たく拒絶した久野家だったが、つぢの毅然とした生き様に心を打たれ、ついに彼女を「久野の嫁」として迎え入れようとするのだった。
しかし、つぢは久野家への帰参を拒む。彼女の心には、吉松を自分の手で育てるという強い決意があり、また、心の中には別の想いが芽生え始めていた。それは、長年つぢを見守り続けた又兵衛への感情だったのかもしれない——。
運命に翻弄されながらも、自らの道を選び、強く生きるつぢの姿を描いた、山本周五郎の傑作短編。
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