『春風祝言』

あらすじ
江戸・赤坂の原田道場で筆頭師範代を務める牧野主計は、剣の腕もさることながら、人情に厚く世話好きな男。友人の木下六兵衞の婚礼を手伝い、門人たちの面倒を見ながら、今日も江戸の町を駆け回る。
そんな彼には、将来を誓い合った恋人がいた。師である市左衛門の娘、折絵である。しかし、主計は日々の忙しさにかまけて、肝心の婚約の話を進められずにいた。そんな折、折絵は江の島・鎌倉見物へ出発。彼女が留守の間に、正式に婚約の話を進める約束をするが——。
一方、道場の門人である武井兵馬は、早く皆伝を得て独立したいと焦るあまり、剣の邪道に手を染める。皆伝をもらえないことに不満を抱いた彼は、主計の名誉を汚し、折絵との仲を裂こうと画策。遊女園次に主計宛の恋文を書かせ、折絵の目に触れるよう仕向ける。
折絵は傷つき、主計との縁談を拒絶。事情を知らない主計は、師・市左衛門からも厳しく断られてしまう。だが、門人の矢田部久吾の証言により、兵馬の策略が発覚。怒りに燃えた主計は、兵馬を追い、折絵たちの向かう江の島へと駆ける。
砂浜で主計と兵馬はついに対峙。兵馬は剣を抜くが、主計は圧倒的な技量で彼を打ち倒し、剣の道を誤ったことを悟らせる。そして、誤解が解けた折絵との仲も元通りに。
戦いを終え、慌ただしく皆を仕切る主計を見ながら、折絵は微笑む。「本当に忙しい方……」
こうして、春風のように軽やかな祝言の時が、ようやく訪れるのだった——。