『鳥刺しおくめ』

「鳥刺しおくめ」山本周五郎

あらすじ

15歳の少女・村岡おくめは、鳥取藩池田家の足軽である父・村岡伊右衛門が病に伏せたことで、生計を支えるために鳥刺しの仕事を始める。幼い頃から鳥捕りの腕を磨いていたおくめは、見事な技術でウグイスやホオジロを捕らえ、鳥好きの藩士に売ることで家計を助けていた。男勝りな性格と立ち振る舞いから、周囲には「猿っ子」とあだ名されるが、実は豊かな黒髪と端正な顔立ちを持つ美しい娘であった。

ある日、おくめは鳥を追っている途中で、鬼鞍東左という武士が農民を脅している場面に遭遇する。東左は、物頭格でありながら高利貸しのようなことをしており、庶民から「ゲジゲジ」と嫌われる男だった。おくめは彼の横暴に怒りを覚えつつも、その場では何もできずに立ち去る。しかし、この東左が後に藩を揺るがす大事件に関わることになる。

そんな折、池田藩では「藩主・池田三左衛門の隠し子」と名乗る若者が現れ、国家老・三左衛門のもとに届けられる。彼の証拠品として、藩主のものである確かな品々が揃っていたため、藩では対応に苦慮することとなる。しかし、その若者の素性を疑ったおくめは、慎重に観察を続けるうちに、彼が実は百姓の子・与二郎であることを見破る。与二郎は、鬼鞍東左に唆され、池田家の跡継ぎになれば金と地位を得られると騙されていたのだった。

おくめは国家老・三左衛門に進言し、策を練る。そして、偽者である与二郎に心理戦を仕掛け、ついには「自分は本当の子ではない」と自白させることに成功する。これにより、池田家の家督争いという大問題が未然に防がれた。しかし、事態を知った東左は怒り狂い、おくめに襲いかかる。だが、おくめは持ち前の俊敏さと鳥刺しの竿を武器にして見事に撃退し、東左を潜水に突き落として決着をつける。

事件が解決した後、おくめは再び鳥刺しの仕事を続けることになるが、その勇敢さと知恵が認められ、池田家中で高く評価される。そして、国家老・三左衛門は「この娘には家中随一の良い婿を見つけ、村岡家の名を長く池田家に伝えよう」と心に誓うのだった。

鳥刺しとして生きる少女が、家族と藩を守るために立ち向かう知略と勇気の物語――『鳥刺しおくめ』は、山本周五郎が描く強く美しい女性の生き様を示す名作である。

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