『湖畔の人々』

「湖畔の人々」山本周五郎

あらすじ

江戸時代、諏訪藩の重臣・斉木兵庫は、妻の那津と数名の従者を伴い、信濃国高島(現在の諏訪)へと帰国する。保養を名目にしながらも、城下の屋敷には入らず、湖畔の温泉街に宿を取る。宿の隠居茂兵衛は、久しぶりに再会した兵庫を驚きながら迎えるが、兵庫は自分の滞在を内密にするよう頼む。

しかし、兵庫にはこの帰国に秘められた目的があった。彼は毎朝、一人で宿を抜け出し、寒天製造に取り組む坂本孫左衛門の作業場を訪れていた。藩の新たな産業として発展しつつある寒天製造の様子を探りながら、兵庫はそこで若き萩原作之進と出会う。作之進は寒天の質を向上させるために熱心に研究し、新たな製法を確立しつつあった。

一方、藩内では藩財政の立て直しを図るため、年貢の割増しが検討されていた。国家老・清水逸之右衛門を中心に話し合いが進められるが、作之進はこれに強く反対し、兵庫に直接意見をぶつける。作之進は、寒天製造をさらに発展させることこそが藩の未来を支えると主張し、兵庫と激しく対立する。

しかし、この対立の中で明かされる意外な真実があった。兵庫の妻・那津は長年ある秘密を胸に抱えており、それが兵庫の人生観を大きく揺るがすことになる。作之進との出会いを通じて、兵庫は自身の過去を見つめ直し、家族の絆を再認識していくのだった。

湖畔の町を舞台に、親子の愛、対立と和解、そして再生が描かれる感動の物語——それが『湖畔の人々』である。

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