『避けぬ三左』

「避けぬ三左」山本周五郎

あらすじ

「避ける」ということを知らない男がいた。
彼の名は国吉三左衛門常信。徳川家康の重臣・榊原康政に仕える武士で、「避けぬ三左」「天気の三左」と呼ばれる男だ。道を歩いていても人を避けず、戦場でも飛んでくる矢や弾を避けない。それは頑固や無鉄砲ゆえではなく、彼の生まれ持った気質だった。

そんな三左衛門がある日、突然「嫁をもらいたい」と言い出す。相手は榊原家中の名武士・鷲尾八郎兵衛の妹・小萩(こはぎ)。しかし、三左衛門は彼女の顔すら見たことがない。ただ、八郎兵衛の妹ならば「間違いない」と信じただけだった。驚いた榊原家の年寄・大橋弥左衛門はその縁談を取り持つことになる。

しかし、縁談がまとまる前に、三左衛門は徳川軍の一員として小田原征伐へ出陣することに。道中、八郎兵衛が追いかけてきて「妹はお前の嫁だ、忘れるな」と告げる。だが、周囲の者は驚愕する。小萩は「駿府のかぐや姫」と呼ばれる絶世の美女だったのだ。肝心の三左衛門だけが、それを知らずに戦場へ向かう。

小田原攻めが始まり、三左衛門は敵の矢弾が飛び交う中を悠然と歩き、堂々と敵城へ迫る。その勇姿に榊原康政も「死なせるな」と目を光らせるが、ついに彼は何本もの矢を受けて倒れる。しかし奇跡的に命を取り留めた。

戦が終わり、康政は三左衛門に語る。「お前が気に病んでいた徳川の関東移封は、新たな未来を築くためのものだ」と。三左衛門はその言葉に納得し、晴れやかに空を見上げる。そして久しぶりに、こうつぶやいた。

「いい天気だの」

彼の待つべき人、小萩のもとへ帰る日が、ついにやってくるのだった。

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